選考委員の方々より講評をいただきました。

<2012年度選考委員・細江英公より 泉 大悟への講評 >

細江:なるほど今の話を伺って、受け止めるものがありました。僕の感想を言えば、作品を見る側にとって、もう少し分かりやすい要素を加えていくと、この作 品はもっと良くなると思いますね。たとえば、数行、あなたの心の中の、あるいは詩の一部とでも言うかな、そういうものを作品に付けることで、今あなたが 言ったような事実とある種の神秘性とが融合しながら、作品として、もっと深い表現ができたのではなかろうか。そういう印象を持ちました。

…註:ちょうどこの時選考委員が席をはずされた時間帯があり、泉さんへの講評が短縮されてしまいました。そこで5月30日、館長と学芸員、広報が、泉大悟さんの作品講評を再度行いました。

小川(広報):YPは国内外から質の高い作家が応募してくれるようなり、購入に至るには3人の選考委員全員が良いと思わなければならないわけです。泉さん の作品はそうした中で2枚購入されました。2枚を少ないと感じる方もあるかもしれませんが、海外ではバングラデシュの作家アカシュのように、初年度が2枚 で、次年度から多数購入されて大きなコレクションになっていったり、35歳を過ぎてから作家が活躍するケースも多くみられます。
田村(学芸員):YPの最近の傾向からすれば、泉さんのようなモノクロのゼラチン・シルバー・プリントは珍しいですね。モノクロ写真の持っている特質や良さに惹かれる部分はあります。
山地(学芸員):最近はあまり見ないタイプの写真だと思いますし、「物」に対する並々ならぬ愛情を示しているところが見る人の心の琴線に触れるのだと思いますね。
細江:僕たちの世代にとっては、ある種の懐かしさみたいなものもあるな。そして「形」、デザインという意味での素晴らしさがありますよ。
山地:実は今年のYPのブックレットを作って頂いたデザイナーも、フライヤーに掲載する候補作品として泉さんの作品を選んでいたのですよ。
細江:なるほどね。たとえば、この作品がもっと大きなサイズである事を想像してみるとね、今のこの緻密さは失われると思いますよ。やはり、実質的なキメの 細かさというか、実体がここにあるような感じがするから、ある種の感動を与える。だから、この作品は今のサイズであることが重要なんだよ。
山地:これ以上も以下もない大きさなのでしょうね。そして写真だからこそ、実体よりディテールが見える。肉眼ではこれほどの質感は見えていないはずだけれども、撮る事によってこの作家の意識したディテールがちゃんと見えてくるということでしょうか。
細江:そうだね。この作品は、写真のサイズという意味でも問題を投げかけてくれた。写真には、これ以上でも以下でもない最適なサイズというものがある、という事をこの作品が知らせているのではないだろうか。